３　多核都市構造の実現

１．対象地域の現況

(1) 都市圏の現況

• 兵庫南部広域都市圏では、臨海部を東西に伸びる鉄道・幹線道路と、南北に走る河川、鉄道に沿って都市圏が形成されている。

• この都市圏は神戸市（人口：約142万人）を中核とし、尼崎市（49万人）、明石市（29万人）を副核、加古川市（26万人）、三木市（8万人）、小野市（5万人）、洲本市（4万人）を地域核として構成される。

• 圏域の中核都市・神戸は地理的制約から、都心での結節性が弱く、通過型の都市構造となっている側面がある。このため、新たな都市軸が開発されてきたものの、周辺都市の発達は大阪や京都に比べ、未だ弱い状況にある（※参考：『日本の三大都市圏』戸所隆著）。

• 近年、神戸市北区・西区、三田市、宝塚市、明石市といった神戸市外延部が急速に成長しているものの、それは神戸都市圏の拡大と大阪都市圏の拡大という両側面から捉えられる（下図参照）。

• 圏域の人口（通勤・通学）流動の状況をみると、東西は西宮市から加古川市まで、北は三木市及び神戸市北区までを神戸都市圏と捉えることができる。

• しかし、西宮市及び神戸市東部は、他の阪神地域同様、大阪都市圏の一部ともなっている。また、加古川市及び高砂市は、近隣地域と独立した都市圏を形成しているうえ、姫路都市圏の一部にもなっている。

• 小野市及び加西市等の東播磨内陸地域と淡路地域は、独立した都市圏になっている。なお、圏域西側の姫路市とその北部後背地は、独自の都市圏を形成している。

(2) 圏域各ゾーンの都市

• 兵庫南部広域都市圏の各地域における都市機能の現況を把握するため、圏域をゾーンに細分化し、各種データの指標化により、分析することとした。

〈分析単位としてのゾーンの設定〉

• 兵庫南部広域都市圏の都市間での人口流動や歴史的・文化的結びつきから、圏域の市町を11のゾーンに設定した（下表参照）。

〈都市機能指標項目の設定・算出方法〉

• 都市機能指標の主要項目には、基本機能である居住・安心及び高次機能である工業（2次）・サービス（3次）・レクリエーション・文化の計6項目を設定した。主要項目の各機能を構成する要素（サブ項目）は、下図のとおりである。

• 指標を表す数値は、統計データを人口一人当たりに換算し、さらに偏差値化することによって算出した。

〈指標にみるゾーンの現況〉

• 都市機能指標について分析した結果、各ゾーンの特徴は以下のとおりである。

(3) 県計画に位置づけられた新都市核の特徴

• 『阪神・淡路震災復興計画』で位置づけられた新都市核について分析し、前節で分割したゾーン別にその特徴を整理すると、以下のとおりである。

〈尼崎・伊丹ゾーン、西宮・芦屋ゾーン〉

• 臨海部の埋立地及び産業用地の土地利用転換を図り、住宅、業務研究、レクリエーション機能を整備することとしている。

〈宝塚・川西ゾーン〉

• 大阪方面への交通アクセスが良く、未利用地が多いため、住宅を中心とした計画になっている。また、都市の拠点性を高めるため、産業機能も計画に取り入れられている。

〈北神・三田ゾーン〉

• 居住機能、文化機能、研究開発機能が複合したニュータウンが整備されつつある。

〈神戸東部ゾーン、神戸中央ゾーン〉

• 埋立による海上都市の建設、港湾・生産用地の土地利用転換を図り、住宅及び国際的な業務・交流機能、先端産業等の集積を図ることとしている。

〈西神・明石ゾーン〉

• 神戸中心ゾーンに近く、未利用地が多いため、新しい住宅地および産業拠点が形成されつつある。

〈加古川ゾーン〉

• 復興計画では新都市核が位置づけられていないゾーンである。

〈三木・小野ゾーン〉

• 山陽自動車道及び西神自動車道、明石海峡大橋の完成に伴う交通拠点性の向上を背景に、先端産業の集積地区が計画されている。

〈淡路ゾーン〉

• 北部では明石海峡大橋の完成に併せた国際交流、レクリエーション機能の整備が計画中である。また、淡路の中心都市である洲本市では、都心地区の再整備が計画されている。

(4) 現況の評価

• 現況分析から、次のようなことが評価できる。

〈臨海地域：既成市街地〉

• 尼崎・伊丹ゾーン、神戸中央ゾーン及び神戸西部ゾーンでは、居住機能、安心機能が十分でなく、既成市街地の面的整備、都市基盤整備等を行い、機能向上に努める必要がある。

• 機能低下した港湾・産業用地については、土地の適正利用の面から、東部新都心、尼崎臨海地区を中心に業務・住宅用地等へ転換していくことが望まれる。

〈内陸地域：開発されつつある住宅団地、工業団地〉

• 宝塚・川西ゾーンは、居住系の整備計画は多いものの、産業系機能が弱く、産業拠点の整備も望まれる。

• 北神・三田ゾーン及び小野・三木ゾーンは、住宅機能と産業機能が比較的バランスがとれているものの、多核型都市構造の形成に向けて、より一層の高次機能の充実が望まれる。

〈淡路地域〉

• 淡路ゾーンは、明石海峡大橋が開通し、ポテンシャルが向上する地域である。今後、新都市核の拡大などにより高次機能の整備が望まれる。

〈多核都市構造実現のポイント〉

• 上記のうち、既成市街地については、市街地再開発事業、土地区画整理事業、住宅系面的整備事業が『阪神淡路震災復興計画』に位置づけられ、今後住民の合意のもとに事業化されようとしている。

• 多核都市構造の実現には、郊外地域・淡路地域での都市機能集積地区の整備がポイントになると思われる。

２．実現に向けての考え方

(1) 広域核の整備

〈新都市核の整備〉

• 整理シートで示した18の新都市核については、ゾーンの特性にもとづき特色ある高次機能の整備を開発熟度に応じ順次進める。

〈都市核の連携による広域核の形成〉

• 基礎的生活単位であるゾーンの整備に当たっては、都市核を相互に連携させ、自立都市としての「広域核」の形成を進める。

〈５つの広域核の提案〉

• すべてのゾーンごとに広域核の形成を図ることが望ましいが、ここではポテンシャルの高い、西神地区、神戸・三田国際公園都市、宝塚新都市、東播磨情報公園都市、淡路島国際公園都市の5つの新都市核に着目し、それぞれの新都市核を中心に形成される「広域核」の整備方向を示すこととする。

• この5つの新都市核は、以下に示すような点から、広域核形成の条件を満たしていると考えられる。

1. 神戸都市圏の外延部に位置し、周辺地域（阪神、東播磨、淡路）との接点にあることから、神戸中央部の副次拠点になるとともに、兵庫南部広域都市圏における交流拠点として機能する。
   
2. 広域高速交通幹線上に位置し、神戸と国内各地を結ぶ広域的な結節点として機能する。
   
3. 国際・全国レベルの特色ある高次機能の形成が予定されている。
   
4. 一定以上の規模をもち、また周囲の自然環境に恵まれていることから、環境共生型の都市づくりが可能である。
   
5. 機能連携を図ることが可能な既存都市核と、一定規模の人口集積がみられる。

〈広域核整備の基本方向〉

• 広域核は、新産業、文化の創造及び人と自然の共生をテーマとした次世代社会の実験都市、フロンティア・シティとして整備する。

• 広域核内部では、自立性の確保に向け、新たな社会基盤（情報通信基盤、自律分散型エネルギー供給システム、リサイクルプラント等）を整備するものとする。

• 広域核の整備にあたっては、地域資源（自然）、技術（芸術）、集客（娯楽）の3要素を結びつけ、新しいライフスタイルの創造をテーマとした高次機能の形成を進める。

• 広域核の中心となる新都市核では、広域行政機関、主要公共施設をその中心に配し、業務機能、業務支援機能の集積を高めるとともに、広域・ローカルの公共交通の結節機能を強化する。

〈各広域核の整備イメージ〉

• 上記の基本方向に沿って、5つの広域核整備のイメージを下記に示す。

(2) 圏域形成のための都市軸の設定

• 一つの広域都市圏として機能するためには、何よりも圏域の一体化を図る必要がある。このため、第一に圏域内幹線軸として、圏域臨海部の既存主軸と内陸部の5つの広域核を結ぶ新たな「環状都市軸」の形成を提案する。

• 次に、広域核と神戸・阪神間の既存都市を結ぶ「放射状都市軸」の強化が必要である。さらに、開かれた圏域とするため、国土軸幹線との連携強化が必要である。

(3) 機能連携による都市軸の形成

• 広域核と既存都市の間で多様な機能連携が期待されるが、環状都市軸及び放射状都市軸の形成に向けて、次のような機能連携を強化する必要がある。

〈環状都市軸の形成〉

• 業務・研究開発機能の連携：宝塚−北神−東播磨−西神

  業務・研究開発機能の相乗効果、集積効果を高めるため、広域核間の連携を進める。

• レクリエーション機能の連携：東播磨−西神−北淡−洲本他

  山陽自動車道、西神自動車道、明石海峡大橋の完成により、内陸部と淡路各地域のレクリエーション施設、交流施設の連携を進める。

• 産業機能の連携：東播磨−西神−加古川−滝野・社他

  東播磨広域核及び西神広域核と東播磨地域の各都市との間において、地場産業と先端産業、異業種間の交流等、産業機能の連携を図る。

〈放射状都市軸の強化〉

• 産業機能とサービス機能の連携：神戸中央−宝塚、北神・三田、東播磨、西神、北淡

  新たな産業、文化の創造に向け、神戸中央部のソフト（文化・サービス関連）機能と、広域核のハード（産業・物流関連）機能の連携を図る。

• 学術・文化機能の連携：宝塚−尼崎−西宮・芦屋−神戸東部

  宝塚広域核と阪神間の各都市において、大学、研究所、学術機関のネットワークや、美術館、博物館、図書館等の連携を促進する。

• 環状都市軸の形成による既存都市軸との複軸化と、両者を結ぶ放射状都市軸の強化により、神戸都市圏は従来の線状構造から扇型構造へと広がりを見せ、多核都市構造の実現に近づくことになる。